
| 3 12月に入った頃。 「え!!二人で乗り込むんすか。」 「まじ。すげー。」 S中の如樹 紊駕を狩りに、轍生と二人で行くっつったらこの騒ぎ。 ぞろぞろ連れるまでもない。と、タンカをきったら、羨望のまなざし。 声援を受けて、俺らはS中に向かった。 もちろん、授業中。 「で、どーやって呼び出す?」 さびついた、ボロい江ノ電に揺られながら、轍生。 「校舎向かって叫ぶ。」 「イカすじゃん。」 「だろ。如樹 紊駕ででこいやー!!ってさ。」 考えただけでワクワクする。 びびりながら姿を現す如樹 紊駕。まわりのざわめき。 そして、全校生徒が見てる前で奴を叩きのめす。恥をさらす。 今日からS中、“BAD”に“BLUES”も。全部俺のもんだ。 S中の校舎。 躊躇なしに門をくぐる。教室棟の窓を見上げて、でかい声を張り上げた。 「如樹 紊駕あぁぁ!!!でてこいやー!!!」 数秒。窓からやじ馬どもが次々と顔を出す。 びびってんじゃねーぞ。でてこい。と、もう一度声を張る。 教師たちも何事かと窓から身を乗り出して、学校中が騒ぎ出したのが外からでもわかった。 でも、当人の姿はまだない。 「サボりの常習って話だ。来てねんじゃねーか。」 轍生の言葉。 ありえる。ちっ、せっかくS中くんだりまで来てやったのによぉ。 俺たちが背を向けようとしたとき、いつからそこにいたのか、一人の男の姿。 「うるせぇな。」 教室の窓からの喧騒も増した。 着崩した制服のズボンに両手をつっこんで、背をそらす男。 長い前髪は赤い。そこからのぞく目は鋭い。斜に構えた、不遜な態度。 「お前が如樹 紊駕か?」 「ダレ。」 無慈悲な声色。怯えた様子も全くない。 上等だ。俺は、もう一度名前をきいた。 「他人の名前尋く前に自分が名乗れよ。」 抑揚のない、平坦な声。 むかつく。 「K学の頭、澪月 坡だ。」 「得道 轍生だ。」 俺らの名前を聞いて、男の眉が上がった。 へっ、びびったか。 「ああ。O中、I中、F中シメたとかゆー、……」 やっぱびびってんな。 男はわかったように声に出した次の瞬間。 鼻を鳴らした。口角を上げる。 「バカヤローか。」 はぁ? なっ、なんだこいつ。 「んだと。てめ、もっかい言ってみろ!!」 男の胸ぐらをつかんだ。バカヤローだと。ナメてんなよ。 「調子こいてんじゃねーぞ!」 「そりゃ、テメエだろ。」 胸ぐらをつかまれたままだというのに、男は嘲笑った。 なんだ、こいつ。マジむかつく。 「こらー如樹!!授業中だぞー!!」 おそらく、先公。の言葉に、そのままの状態で、何もやっちゃいませんよ。と、少し声を張った。 やっぱ、こいつが、如樹。 しかも、先公にびびってんのか。へっ、たいしたことねぇな。 俺の腕が一瞬緩んだとき。隙を見て如樹が払った。 「テメエ。顔、貸せや。」 「ヤダ。」 はぁ? 如樹は、ゆっくりと赤い前髪をかきあげた。 「びびってんのかよ。」 「俺、おせっかいやくのすきじゃねーからよ。」 は?は? 意味わかんねぇ。何いってんの、こいつ。 如樹はそういって背を向けようとした。 「ま、待てよ。何わけわかんねーことゆってんだ。」 「あたま、悪ぃな。」 振り返った顔。面倒くさい。うざい。そう書いてあった。 ふざけんな。 ますます俺は怒り心頭。 なんなんだ、こいつは。 「逃げんじゃねーよ。何びびってんだよ。」 「しつけーな。」 きっ、睨みつけられたその目。不覚にも身震いした。 こいつ……。 いや、引けねぇ。ここまで来て、引けるわけねぇ。メンツにかけても。 「おい!如樹!S中の番格賭けて、勝負しろ!」 「興味ねぇ。」 また、即答で拒否。 ざけんな、マジ、こいつ。 すげー見下された感。ちょーむかつく。 その目。 「ヒマじゃねんだけど。」 「てめえ、びびってんだろ。どーにかして逃げようとか考えてんだろ。」 そんなに俺と交えたくねぇーのかよ。へっ。 如樹は大げさにため息をついた。面倒くさそうに。 「こいよ。」 とがった顎をしゃくる。 お。やっとやる気になったか、こいつ。しかも、人気のない、裏の空き地を示した。 よほど学コのやつらにやられた姿みせたくないと見える。しょーがねぇな。 「いいぜ、誰もいないところでも。負けたらS中の頭のメンツ。丸潰れだもんなぁ。」 「おめえ、なんか勘違いしてねぇか?」 如樹は、静止した。そして、振り返る。その目、哀れみ? 「俺は、S中のタイトル誰かからとった覚えはねぇーし、ハナからここに頭なんていねぇよ。」 は。いいわけか。如樹ともあろうものが、笑えるな。ほざけ。 S中のタイトルなんて関係ない。如樹は吐き捨てた。 「でも、ここまでゆってもわかんねぇーなら、やってやるよ。」 「おう。こいや。」 前置きが長くなったな。ここからが、本番だ。 これで、BADもBLUESも俺のもんだ!!! 「おりゃぁぁぁ!!」 サンドバッグになりやがれ。くそ、むかつく如樹っ!! 「っ坡!!!」 「っ!?」 一瞬だった。俺の渾身の右ストレート。如樹は半歩右横に避けて、左を放った。 左きき こいつ、サウスポー。 思わず目を瞑った。 「……てめ、な、んで。」 奴の左は俺のみぞおちドンピシャ寸止め。 「これで、一発。お前はやられた。」 如樹は腕をひいた。まっすぐ見つめる目。 「バカなコト考えんな。」 ……なっ。 何だよ、バカなコトって。俺がてめえに挑んだことかよ。 ざけんな、寸止めとか。やりあってもいねーのに、俺がお前に負けたっつーのかよ。 如樹の姿は、どんどん遠ざかっていく。 待てよ。まて。 「てめえ如樹!待ちやがれ!」 「やめろ、坡!」 轍生がうしろから俺を抱えた。 「はなせ!んで止めんだよ、轍生!!」 「いいから、やめようぜ。今日のところは、帰ろう。」 ふざけんな!どのツラさげて帰れってんだよ。コケにされたまま。帰れっかよ。 くっそ、くっそ!! 「……奴は、如樹はやっぱやべーよ。」 轍生はつぶやいた。 わかってた。油断なんて微塵もしてねぇ。いくら相手がサウスポーだからって。 寸止めされてなかったら、ワンパンでのされてた。おそらく。 尋常じゃない動体視力、スピード。 ケンカ慣れしてるなんてもんじゃねー。奴は、強い。 でも、だからってこのまま引き下がれっかよ。 くそ!くそ!ふざけんじゃねー!! 俺は怒りの矛先をどこに向けていいかわからず、空を睨みつけた――……。 <<前へ >>次へ <物語のTOPへ> |